福祉サービスヘの契約制度の導入は、判断能力が不十分な人や自分で選択できない環境にある人たちの選択をどのように支援するのかという重いテーマを改めて浮き彫りにすることになった。また、昨今の子ども、高齢者、障害者等への深刻な虐待の増加は、権利侵害を受けた事例への適切な対応を関係者に強く迫っている。さらには、地縁・血縁の希薄化を背景とした保証人等の不在が地域生活を阻む要因となりつつある。
こうした状況を背景としながら、「権利擁護」の重要性が強く指摘され、また権利擁護のための具体的な手だてについて議論されるようになっている。成年後見制度や日常生活自立支援事業の活用、高齢者虐待防止法に基づく市町村の対応、地域包括支援センターにおける権利擁護事業等の取り組みも多様な展開と深まりをみせている。また、保証人をめぐる課題にも新たな方策を講じる動きがみられる。
しかしながら、「権利擁護とはいったい何を擁護することなのか」という本質論を看過してはならない。その本質を意識しないまま権利擁護活動に携わることは、形骸化した権利擁護に陥ったり、権利擁護のはずがいつの間にか権利侵害にすり替わってしまうことにもなりかねない。
「権利擁護」とは、援助の本質につながる深く重い概念である。各種の虐待や経済的被害、機会の剥奪や不当な扱い、差別や中傷等から本人を守るという権利侵害からの保護、また人として生活するのに最低限必要な衣食住をはじめとする生活上の基本的ニーズの充足は、いうまでもなく権利擁護活動の中核をなすものではある。これらを「狭義の権利擁護」とするならば、さらにそこから、「本人らしい生活」と「本人らしい変化」を支えるという「積極的権利擁護」にまで拡大してとらえることが求められる。
「本人らしい生活」の保障とは、自分の「存在」に意味と価値があることが社会関係のなかで認められ、さらに本人が自分にとってのあるべき生活を主体的に創造していくことである。「本人らしい変化」の保障とは、心身と環境の変化にともなって、社会資源の活用を含めて周囲との支え合いの社会関係を結びながら新しい生活を創造していくことである。こうした内容は、自己実現や自己決定の尊重とも深く関係し、また援助における代弁機能のあり方を問うことにもなる。
権利擁護とは、生命や財産を守り、権利が侵害された状態から救うというだけでなく、本人の生き方を尊重し、本人が自分の人生を歩めるようにするという本人の自己実現に向けた取り組みを保障するものでなければならない。本人を保護したり庇護することが権利擁護なのではなく、自分の置かれた環境を自らが変えていく主体者として本人を位置づけることを意味するものである。
(岩間伸之)